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中世ヨーロッパ史に関する個人的覚書
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映画「薔薇の名前」をレンタルしました。
視聴のテーマは「皮剥ぎ職人と修道院の関係」について考察することです。
以前に頂いた資料で、「そもそも屠殺場は修道院や教会の敷地の近くにあり、水辺に追いやられたのは一九世紀に入ってからである」との記述があり、今までに読んできた資料と矛盾するこの内容についてグリム講座の先生に質問したところ、資料の一つとしてこの映画を教えていただけました。
内容は、1327年北イタリアの修道院を舞台に殺人事件の謎を解く、ショーン・コネリー主演のサスペンスものです。
お話的には目の肥えた今見ると別段ひねりのないサスペンスでしたが、舞台や背景の描写の緻密さは特筆に値します。
(もちろん映画としては面白いほうに分類されますが、個人的にはやはり舞台装置や垣間見える当時の常識のほうに目が行ってました)
そんな舞台装置ですが、山の上の修道院で周囲には乞食同然の農民の集落がある状況で、修道院の中に屠殺場があるという風景は確かに珍しいものです。
本来、屠殺業は皮剥ぎ職人と呼ばれ賤民視されており、水の近くに追いやられていたはずです。
少なくとも水車小屋より上流にあったとは到底考えられません。なぜなら、水車小屋の上流に屠殺場があると、血が流れ込み真っ赤に染まった水を水車が巻き上げるという、凄まじい光景になってしまうからです。
パン(当時としては最も神聖な食物の一つです)を作る小麦粉を挽く水車が血に染まっている光景など、絶対にあり得ないと言っても過言ではないでしょう。
一例をあげると、中世ヨーロッパの都市の生活(F・ギース/J・ギース著)を読むと1250年トロワの風景にて、次のような記述があります。
――引用ここから――
肉屋と皮なめし屋は一一世紀に増え、その結果、都市に典型的な問題が生じていた。ヴィエンヌ川の川底がごみであふれたのである。シャンパーニュ伯アンリ一世はセーヌ川上流から川底をさらわせ、ヴィエンヌに流れ込む流量を増やしてごみを流す作戦をとった。それでも、肉屋と皮なめし職人の住んでいる地域は市街地の中で最悪だった。
――引用ここまで――
ここで言う肉屋とは、別のページでは「肉屋街では、店で動物を殺すため」とあるため、イコール皮剥ぎ職人と考えて良いと思われます。
以上を踏まえると、修道院の内部に皮剥ぎ職人がいる風景というのは、いささか違和感を禁じえません。
また、この修道院は山の上で、水や川はまったく描写されていなかったので、おそらく粉挽きは水力ではなく人力だったのでしょう。
しかし、そうでなくとも、周囲に農民がいくらでも住んでいるのですから、皮剥ぎ職人はその近辺に追いやられるのが筋だと思われます。
しかし、ここでは修道院が一つの都市のように強固な壁で隔絶され、周囲の農民には近づくことのできない空間が作られており、インフラは全てその中に収まっているように見えました。
この辺りが実際にどうだったのかは、なにしろ当時の資料が少ないため、「わからない」としか言い様がありませんが、想像によって辻褄合わせを試みることはできます。
いわゆるバン領主制度に見られるバナリテ(使用強制権)などの「強力な権利を行使する者」が教会に近い立場にいる(=教会の支配力が強い)地域では生活必需職(粉挽きや皮剥ぎ職人も含む)を教会や修道院が完全に囲い込み、そうでない(=教会の支配を脱している)地域では、居住区から離れた水際へと追いやられていたのではないでしょうか。
例えば、ハーメルンの北西に位置するミンデン市などは、一三世紀までは司教区として教会の一大勢力圏でしたが、一四世紀に入ると教会の支配力は衰え、市参事会が代わりに力を得て行きます。
こういった変遷の中で、皮剥ぎ職人や粉挽きなどの「賤民視されつつも特権を持っていた職業」がどのように変化していったかを知ることが出来れば、大きなヒントになるように思います。(リューネブルク写本を読んでみたいところです)
先にも言った通り、映画の舞台となる修道院は山の上なので川や水がほとんどなく、屠殺の際に出た血液を瓶に貯め込んでいましたが、あれはいったいどのように処分されたのだろうかが気になります。
同じく映画の中では食べかすなどのごみを裏口から投棄して、そこに貧民が群がる描写がありましたが、同じように貧民のいるところに容赦なく流していたのではないでしょうか。
強力な権利を壁の中に囲い込む教会と、その周辺に群がる貧民という大局的な構図が、とても印象的でした。
また、神学論議を口実に財産の没収をもくろむ教皇庁と、それに抵抗する修道院など、当時の力関係なども映画を通して見えてくるようで、色々な面で楽しめる映画でした。
視聴のテーマは「皮剥ぎ職人と修道院の関係」について考察することです。
以前に頂いた資料で、「そもそも屠殺場は修道院や教会の敷地の近くにあり、水辺に追いやられたのは一九世紀に入ってからである」との記述があり、今までに読んできた資料と矛盾するこの内容についてグリム講座の先生に質問したところ、資料の一つとしてこの映画を教えていただけました。
内容は、1327年北イタリアの修道院を舞台に殺人事件の謎を解く、ショーン・コネリー主演のサスペンスものです。
お話的には目の肥えた今見ると別段ひねりのないサスペンスでしたが、舞台や背景の描写の緻密さは特筆に値します。
(もちろん映画としては面白いほうに分類されますが、個人的にはやはり舞台装置や垣間見える当時の常識のほうに目が行ってました)
そんな舞台装置ですが、山の上の修道院で周囲には乞食同然の農民の集落がある状況で、修道院の中に屠殺場があるという風景は確かに珍しいものです。
本来、屠殺業は皮剥ぎ職人と呼ばれ賤民視されており、水の近くに追いやられていたはずです。
少なくとも水車小屋より上流にあったとは到底考えられません。なぜなら、水車小屋の上流に屠殺場があると、血が流れ込み真っ赤に染まった水を水車が巻き上げるという、凄まじい光景になってしまうからです。
パン(当時としては最も神聖な食物の一つです)を作る小麦粉を挽く水車が血に染まっている光景など、絶対にあり得ないと言っても過言ではないでしょう。
一例をあげると、中世ヨーロッパの都市の生活(F・ギース/J・ギース著)を読むと1250年トロワの風景にて、次のような記述があります。
――引用ここから――
肉屋と皮なめし屋は一一世紀に増え、その結果、都市に典型的な問題が生じていた。ヴィエンヌ川の川底がごみであふれたのである。シャンパーニュ伯アンリ一世はセーヌ川上流から川底をさらわせ、ヴィエンヌに流れ込む流量を増やしてごみを流す作戦をとった。それでも、肉屋と皮なめし職人の住んでいる地域は市街地の中で最悪だった。
――引用ここまで――
ここで言う肉屋とは、別のページでは「肉屋街では、店で動物を殺すため」とあるため、イコール皮剥ぎ職人と考えて良いと思われます。
以上を踏まえると、修道院の内部に皮剥ぎ職人がいる風景というのは、いささか違和感を禁じえません。
また、この修道院は山の上で、水や川はまったく描写されていなかったので、おそらく粉挽きは水力ではなく人力だったのでしょう。
しかし、そうでなくとも、周囲に農民がいくらでも住んでいるのですから、皮剥ぎ職人はその近辺に追いやられるのが筋だと思われます。
しかし、ここでは修道院が一つの都市のように強固な壁で隔絶され、周囲の農民には近づくことのできない空間が作られており、インフラは全てその中に収まっているように見えました。
この辺りが実際にどうだったのかは、なにしろ当時の資料が少ないため、「わからない」としか言い様がありませんが、想像によって辻褄合わせを試みることはできます。
いわゆるバン領主制度に見られるバナリテ(使用強制権)などの「強力な権利を行使する者」が教会に近い立場にいる(=教会の支配力が強い)地域では生活必需職(粉挽きや皮剥ぎ職人も含む)を教会や修道院が完全に囲い込み、そうでない(=教会の支配を脱している)地域では、居住区から離れた水際へと追いやられていたのではないでしょうか。
例えば、ハーメルンの北西に位置するミンデン市などは、一三世紀までは司教区として教会の一大勢力圏でしたが、一四世紀に入ると教会の支配力は衰え、市参事会が代わりに力を得て行きます。
こういった変遷の中で、皮剥ぎ職人や粉挽きなどの「賤民視されつつも特権を持っていた職業」がどのように変化していったかを知ることが出来れば、大きなヒントになるように思います。(リューネブルク写本を読んでみたいところです)
先にも言った通り、映画の舞台となる修道院は山の上なので川や水がほとんどなく、屠殺の際に出た血液を瓶に貯め込んでいましたが、あれはいったいどのように処分されたのだろうかが気になります。
同じく映画の中では食べかすなどのごみを裏口から投棄して、そこに貧民が群がる描写がありましたが、同じように貧民のいるところに容赦なく流していたのではないでしょうか。
強力な権利を壁の中に囲い込む教会と、その周辺に群がる貧民という大局的な構図が、とても印象的でした。
また、神学論議を口実に財産の没収をもくろむ教皇庁と、それに抵抗する修道院など、当時の力関係なども映画を通して見えてくるようで、色々な面で楽しめる映画でした。
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プロフィール
HN:
凪茶(ニャギ茶)
性別:
男性
職業:
くたばり損ないの猫
趣味:
ドイツとイギリス
自己紹介:
ドイツ・イギリスを中心に中世ヨーロッパの生活習慣、民俗学などを勉強しています。
最近はブリュ物語の翻訳ばかりやってます。
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