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中世ヨーロッパ史に関する個人的覚書
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■ロビン・フッド伝説
ご存知、ロビン・フッド。かつて実在したと言われている中世イングランドの義賊です。
このあたりを題材に書きたい話が浮かんできたので、関連書籍を読み漁って勉強しています。
とにもかくにも、「ロビン・フッドに関して、知らないことはない」くらいのレベルを目指して行きたいところです。
ある程度まとまり次第、更新していきます。
◆アウトローとはなにか?
ロビン・フッドのことを調べると必ず出てくるキーワードに「アウトロー」というものがあります。
そのまま直訳すると「無法者」となり、ラッセル・クロウ主演の映画でもそのように翻訳されていました。
しかし、この映画のラストでジョン王が宣言していた「ロビン・フッドを無法者とする!」という表現にイマイチしっくり来なかった人も多いのではないでしょうか。
日本語で「無法者」というと、「乱暴者、チンピラ、愚連隊」のような意味合いで解釈されることが多いのが、その原因だと思われます。
つまり、ジョン王はロビン・フッドを指して「あいつは悪いやつだ!」と喚いただけのように見えてしまい、「うん、それで? 悪口言っただけ?」みたいな拍子抜け感が漂ってしまったわけです。
かと言って、翻訳が悪かったとは一概には言い切れません。なぜなら、やはり「アウトロー」には「無法者」以外に該当する言葉がないからです。
問題は「無法者」という翻訳ではなく、「アウトローという言葉の持つ重み」にこそあるのです。
実のところ、中世イングランドにおいて「アウトロー」という言葉は、現代日本人にとっての「無法者、チンピラ」とは比較にならないほど重い意味を持っていたのです。
日本では「無法者」というと「法律を守らない者」という意味合いが強いと思われますが、中世イングランドにおいて「無法者」とは、「法律で守られない者」だったのです。
実際問題として、中世イングランドにおける「アウトロー宣告」とは、最も重い刑罰のひとつでした。
それはどのようなものかというと、文字通りに「法律で守ってもらえない」というもので、神聖ローマ帝国における「平和喪失刑」に近いといえます。
具体的には、
・すべての街や村への出入りを禁止
・あらゆる取引を禁止
・アウトローとの取引に応じたものもアウトローと見なされる
・アウトロー発見の際には殺害を推奨
このようなものでした。(ちなみに後ろの二つは神聖ローマ帝国の平和喪失刑ではあまり聞きません。この二点において、数段重い刑罰という印象を受けます)
ようするに「死刑にしたいけど、逃げまわってるから殺せない」というだけの指名手配犯とでもいいましょうか、事実上の逃亡死刑囚と言い換えることもできます。
アウトロー宣告とは、決して「チンピラの烙印を押される」というだけの軽いものではなく、それこそ死刑に匹敵する刑罰だったのです。
これを踏まえて問題のシーンを見直すと、ジョン王は「ロビン・フッドは悪いやつだ!」と言ったのではなく、「ロビン・フッドを追放する! 見つけ次第処刑せよ! 奴に関わったものや助けたものも同罪とする!」と宣告していたことがわかると想います。
◆なぜアウトローがヒーローになったのか?
ロビン・フッド活劇の舞台は、一般的にはイングランド国王リチャード一世の時代とされています。(実際には諸説あります。次回以降のエントリで解説していきたいと思います)
これが正しいかどうかは横に置いといて、今現在、我々が見ることのできるほとんどのロビン・フッド活劇において、なんらかの形でリチャード一世が登場しています。
では、リチャード一世(在位1189年~1199年)の時代とは、どのような時代だったのでしょうか?
当時のイングランドには、1066年にウイリアム征服王が規定した狩猟法という悪法があり、これにヨーマン階級(農奴と貴族の中間層、独立農夫とでもいいましょうか)が強く反発するという構図がありました。
この狩猟法がどのように悪法なのかというと、一言でいえば「王の森の鹿や猪を狩ってはいけない」というだけの単純なものです。
しかし、その効力は森から離れた場所にも及び、「王の森から出て畑に現れた鹿や猪」も狩猟禁止対象になったのです。
この結果、なにが起きるかというと、
「王の森から出て畑に現れた鹿や猪を狩ってはいけない」
↓
「どの鹿や猪が王の森から出てきたのか判別不可能」
↓
「事実上、すべての鹿と猪を狩れない」
↓
「畑をどんなに荒らされても手を出せない」
↓
「畑が全滅」
このような状態になるわけです。
日本の歴史で例えるのであれば、徳川綱吉の「生類憐れみの令」に近いでしょうか。
畑を失ったヨーマンが生きるために密猟に手を染めることは、必然と言えましょう。そして、そのような密猟者に対して代官が下した刑罰こそが「アウトロー宣告」でした。
畑を荒らす鹿や猪に悩まされ、しかし手を出すことも出来ずに歯軋りをしている農夫にとって、森に潜んで鹿や猪を狩るアウトローたちは、「害獣を駆除してくれる」「悪代官に敵対している」などの複数の意味でヒーローだったことでしょう。
ロビン・フッドは常に「義賊」として描かれますが、これにはこのような背景があったのです。
この悪法は、1215年にジョン王が調印を余儀なくされた大憲章マグナカルタで撤廃されることになりますが、ラッセル・クロウ主演のロビン・フッドはまさにこのマグナカルタに繋がる物語として描かれたというわけです。
ご存知、ロビン・フッド。かつて実在したと言われている中世イングランドの義賊です。
このあたりを題材に書きたい話が浮かんできたので、関連書籍を読み漁って勉強しています。
とにもかくにも、「ロビン・フッドに関して、知らないことはない」くらいのレベルを目指して行きたいところです。
ある程度まとまり次第、更新していきます。
◆アウトローとはなにか?
ロビン・フッドのことを調べると必ず出てくるキーワードに「アウトロー」というものがあります。
そのまま直訳すると「無法者」となり、ラッセル・クロウ主演の映画でもそのように翻訳されていました。
しかし、この映画のラストでジョン王が宣言していた「ロビン・フッドを無法者とする!」という表現にイマイチしっくり来なかった人も多いのではないでしょうか。
日本語で「無法者」というと、「乱暴者、チンピラ、愚連隊」のような意味合いで解釈されることが多いのが、その原因だと思われます。
つまり、ジョン王はロビン・フッドを指して「あいつは悪いやつだ!」と喚いただけのように見えてしまい、「うん、それで? 悪口言っただけ?」みたいな拍子抜け感が漂ってしまったわけです。
かと言って、翻訳が悪かったとは一概には言い切れません。なぜなら、やはり「アウトロー」には「無法者」以外に該当する言葉がないからです。
問題は「無法者」という翻訳ではなく、「アウトローという言葉の持つ重み」にこそあるのです。
実のところ、中世イングランドにおいて「アウトロー」という言葉は、現代日本人にとっての「無法者、チンピラ」とは比較にならないほど重い意味を持っていたのです。
日本では「無法者」というと「法律を守らない者」という意味合いが強いと思われますが、中世イングランドにおいて「無法者」とは、「法律で守られない者」だったのです。
実際問題として、中世イングランドにおける「アウトロー宣告」とは、最も重い刑罰のひとつでした。
それはどのようなものかというと、文字通りに「法律で守ってもらえない」というもので、神聖ローマ帝国における「平和喪失刑」に近いといえます。
具体的には、
・すべての街や村への出入りを禁止
・あらゆる取引を禁止
・アウトローとの取引に応じたものもアウトローと見なされる
・アウトロー発見の際には殺害を推奨
このようなものでした。(ちなみに後ろの二つは神聖ローマ帝国の平和喪失刑ではあまり聞きません。この二点において、数段重い刑罰という印象を受けます)
ようするに「死刑にしたいけど、逃げまわってるから殺せない」というだけの指名手配犯とでもいいましょうか、事実上の逃亡死刑囚と言い換えることもできます。
アウトロー宣告とは、決して「チンピラの烙印を押される」というだけの軽いものではなく、それこそ死刑に匹敵する刑罰だったのです。
これを踏まえて問題のシーンを見直すと、ジョン王は「ロビン・フッドは悪いやつだ!」と言ったのではなく、「ロビン・フッドを追放する! 見つけ次第処刑せよ! 奴に関わったものや助けたものも同罪とする!」と宣告していたことがわかると想います。
◆なぜアウトローがヒーローになったのか?
ロビン・フッド活劇の舞台は、一般的にはイングランド国王リチャード一世の時代とされています。(実際には諸説あります。次回以降のエントリで解説していきたいと思います)
これが正しいかどうかは横に置いといて、今現在、我々が見ることのできるほとんどのロビン・フッド活劇において、なんらかの形でリチャード一世が登場しています。
では、リチャード一世(在位1189年~1199年)の時代とは、どのような時代だったのでしょうか?
当時のイングランドには、1066年にウイリアム征服王が規定した狩猟法という悪法があり、これにヨーマン階級(農奴と貴族の中間層、独立農夫とでもいいましょうか)が強く反発するという構図がありました。
この狩猟法がどのように悪法なのかというと、一言でいえば「王の森の鹿や猪を狩ってはいけない」というだけの単純なものです。
しかし、その効力は森から離れた場所にも及び、「王の森から出て畑に現れた鹿や猪」も狩猟禁止対象になったのです。
この結果、なにが起きるかというと、
「王の森から出て畑に現れた鹿や猪を狩ってはいけない」
↓
「どの鹿や猪が王の森から出てきたのか判別不可能」
↓
「事実上、すべての鹿と猪を狩れない」
↓
「畑をどんなに荒らされても手を出せない」
↓
「畑が全滅」
このような状態になるわけです。
日本の歴史で例えるのであれば、徳川綱吉の「生類憐れみの令」に近いでしょうか。
畑を失ったヨーマンが生きるために密猟に手を染めることは、必然と言えましょう。そして、そのような密猟者に対して代官が下した刑罰こそが「アウトロー宣告」でした。
畑を荒らす鹿や猪に悩まされ、しかし手を出すことも出来ずに歯軋りをしている農夫にとって、森に潜んで鹿や猪を狩るアウトローたちは、「害獣を駆除してくれる」「悪代官に敵対している」などの複数の意味でヒーローだったことでしょう。
ロビン・フッドは常に「義賊」として描かれますが、これにはこのような背景があったのです。
この悪法は、1215年にジョン王が調印を余儀なくされた大憲章マグナカルタで撤廃されることになりますが、ラッセル・クロウ主演のロビン・フッドはまさにこのマグナカルタに繋がる物語として描かれたというわけです。
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プロフィール
HN:
凪茶(ニャギ茶)
性別:
男性
職業:
くたばり損ないの猫
趣味:
ドイツとイギリス
自己紹介:
ドイツ・イギリスを中心に中世ヨーロッパの生活習慣、民俗学などを勉強しています。
最近はブリュ物語の翻訳ばかりやってます。
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